お店の紙ナプキン

ほとんど人がいないホテルの食堂で、朝ご飯を食べていると、ホテルの使用人が二人で楽しそうに紙ナプキンを二つ折りにしている。

 

彼らの顔はリラックスしている。誰にもおびやかされない朝の一仕事が終わった後の、良き時なんだろうと思う。

 

「紙ナプキンを折る」という作業は、私がアルバイトしていたお店でもあった作業だったので、懐かしかった。どういう時の作業かと言えば、お客さんが来なくて暇で仕方がないときの作業である。ただ、暇なだけではなく、暇な上に疲れて動きたくないときのとっても楽な作業だった。だからリラックスした顔でするというよりも、いまひとつやる気がない表情の人が多かった。

 

他に暇なときの作業としては掃除がある。一瞬でも暇そうにしていると、同じく暇なためにバイト達の動きがよく目につく店長に、年末大掃除のような大仕事を言いつけられる。営業中にも関わらず、ホールの壁を洗剤で磨くということまでさせられる。

 

そのため、結構な率で暇だったそのお店は、いつも隅までピカピカだった。でも南の島の写真やいつからあるのか分からない造花(ときどき洗剤で洗われるために、色が褪せている。)などいまひとつセンスから程遠いものが並んでいたため、ピカピカだけどそのことが大してお店のイメージ向上には結びついていなかった。

 

さて「紙ナプキンを折る」という作業は、やりたくてもできない時が多い。

なぜかといえば、アルバイト達みんながやりたい憧れの仕事であったため、いつもそれを補充する棚が、折られた紙ナプキンで溢れかえっていたのである。

 

しかもその紙ナプキンは、特に洋食屋でもなかったお店の唯一の洋食メニューである「カレー」のスプーンに使われるだけであった。更にそれが出前で出た時にだけ、スプーンに巻かれるというレアなアイテムなので、1分で5枚は折れるのに、需要が全く追いついていなかった。

 

なので、あんまり折りすぎると他のバイト達に白い目で見られてしまうので、加減が必要であった。

 

 

けれどこのレストランでは、あのリラックスした時間をじっくりと二人で過ごす時間が、毎朝とれるほど、きっと紙ナプキンが需要されるんだな、と各テーブルのスプーンとフォークの下にひいてあるそれを見ながら思った。

 

1日を終えて疲れ果ててやる気のないバイトが取り合う仕事でなく、「今朝も一日がんばりましょう。」きっとそう言いあっている、よい紙ナプキンのひとときなんだろうな。